偽者注意!
それは、昼食時は過ぎたものの夕食にはまだ早い時間帯。
なんとなく小腹を空かせた俺が、アクセルの街をブラブラしながら屋台で買い食いしていた時の事だった。
「おい、そこの兄ちゃん」
屋台で謎肉の串焼きを買い、ベンチに腰掛けそれを頬張っていた俺に、冒険者とおぼしき男が声を掛けてきた。
この街で俺の事を兄ちゃん呼ばわりするという事は、多分他所から来た人なのだろう。
「これふってはらでいいでふか?」
「……あ、ああ、悪いな食事の邪魔しちまって」
俺は串焼きをもぐもぐしながら、声を掛けてきた冒険者を観察する。
背は俺よりも頭二つ高いぐらいか。
黒系で統一した軽装鎧に身を包み、その上から同じく黒のマントを羽織っている。
顔は一言で言えば強面だが、渋さを感じさせるイケメンでもあった。
鎧のあちこちに付いた小さな傷と、腰の左右に下げた二本の双剣の使い込まれ具合から、かなりのベテラン冒険者だと一目で分かる。
赤茶けた髪色、そして、意志の強そうな茶色の瞳が只者ではなさそうな眼光を放っていた。
—まず間違いなく、俺よりも遥かに高レベルで強い歴戦の猛者だ。
「食ったままでいい。そのままで聞いてくれ。実は、人を捜していてな」
男はそう前置きすると。
「俺の名はオズマ。ザトゥ・オズマだ。この街にサトウ・カズマとかいう男がいると聞きやってきた。ここでは有名な男らしいが、どこに行けばそいつに会えるのか教えてくれないか」
俺は食い掛けの串焼きを噴き出した。
「—大丈夫か? ほら、クリエイトウォーターで水作ったから、これでも飲め」
むせて咳き込んでいた俺に水の入ったコップを差し出しオズマが言った。
……そう、オズマである。
「オズマさんっていいましたっけ、ありがとうございます。……えっと、オズマさんは冒険者ですよね? その、佐藤和真に一体なんの用事があって……」
俺は受け取った水をちびちび飲みながら、それとなく探りを入れる。
ていうか名前超似てる。
これってアレか、名前が似てるから改名しろとか、その名前使う気なら使用料よこせとかそんな流れだろうか。
親に貰った名前にケチ付けられるいわれはないが、こんな強面の腕利きに脅されたら思わず財布を渡しそうだ。
「実は、俺に似た名前のそいつが、随分と評判が悪くてな。おかげで色んなところでとばっちりを受けてるんだ。その事で一言文句を言ってやろうと思ってな。……まあ、他にも用があるんだが……」
オズマはそう言うと苦笑しながら後ろ頭をガリガリ掻いた。
なんというか、別に悪い人ではなさそうだ。
俺の悪い評判とやらは気になるが、まあ良い噂が流れていないのは知っている。
短絡的な人にも見えないし、きちんと話をすれば分かってくれるのではないだろうか。
「……怒らないで聞いてくれよ? 実は」
と、言い掛けたその時。
「オズマ! もう、こんなところにいた! カズマとかいう不届き者は見つかった!?」
遠くから女性の声が掛けられる。
それと共に、こちらに向かってやってくる三人の女性冒険者。
「ちょっとオズマ、あなたは顔が怖いんだから情報収集は私達がやるって言ったでしょう? 今のあなたは、街の男の子を脅してるようにしか見えないわよ?」
そう言って、俺に憐みの目を向けてきたのは黒髪の魔法使い。
「すいません、ウチのオズマさんがご迷惑をおかけしまして……」
と、申し訳なさそうに頭を下げる、青みがかった髪色のプリースト。
そして……、
「少年、すまなかったな。だが、この男は根は悪いヤツではないんだ。怖がらないでやってくれ。ああ、私は……」
くすんだ金髪に碧眼の美女が、見事な騎士の礼を見せながら微笑んで。
「私の名はラクレス。クルセイダーを生業としている者。少年、キミの名前は?」
「俺は田中と申します」
俺は偽名を使う事にした。
…続きは第5巻ブックレットにて!